大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和43年(ワ)811号 判決 1970年1月27日

原告 荒島重吉

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 黒田充治

同復代理人弁護士 久枝壮一

被告 山田雅也

右訴訟代理人弁護士 森末繁雄

主文

被告は原告重吉に対し、一五〇万円、その余の原告らに対し、三〇万円宛およびこれらに対する昭和四〇年一一月一八日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮りに執行することができる。

事実および理由

原告ら訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告重吉は亡荒島時野の夫、亡荒島義人の父であり、その余の原告らはいずれも右時野と右原告との間の子で、亡義人の弟妹である。

二、訴外安倍辰雄は、昭和四〇年一一月一七日午前六時一五分頃、大型貨物自動車岡一せ二九三一号を運転して、岡山市玉柏県道上を北進中、先行の自衛隊ジープを追越そうとしたが、かかる場合は対向車の有無およびその動向を確かめて事故を未然に防止する義務があるのに、これを怠り、対向車はないものと軽信し、漫然と追越にかかり該道路の右側へ進出したため、折から同所を対向してきた前記義人運転の自動二輪車前部に自車右前部を激突させ、これを跳ねとばし、よって右義人を頭蓋底骨折等で即死するにいたらせ、また右自動二輪車に同乗中の前記時野を頭蓋骨骨折等で同日午前九時五三分死亡するにいたらせたものである。

三、被告山田は丸和商事の商号で宅地造成の請負を業とし、この営業のため右訴外安倍を雇傭し、その運転にかかる本件加害車両を他からチャーターし、運行の用に供していたものである。

四、亡時野は明治四五年四月七日生れで、死亡当時、厚生省簡易生命表による平均余命二三年、亡義人は昭和一四年五月一日生れで、死亡当時、同平均余命四三年、したがって前者は爾後少くとも九年間、後者は同じく三六年間なお稼働可能であると言うべきところ、時野は死亡当時、年間農業による純所得一四万六〇〇〇円、生活費五万円を差し引くと九万六〇〇〇円の純収益を挙げており、また義人は死亡当時年間農業および出稼ぎによる純所得五六万五〇〇〇円、生活費一二万円を差し引くと四四万五〇〇〇円の純収益を挙げていたから、前者は九年間に八六万四〇〇〇円の純収益を挙げうべく、これからホフマン式計算法による年五分の割合の中間利息を控除すれば同人の本件事故当時における逸失利益の損害額は五九万五一七二円、後者は三六年間に一六〇二万円の純収益を挙げうべく、これから前同様の控除をすれば同人の本件事故当時における逸失利益の損害額は八一三万円となる。

また、亡義人は本件事故により、その所有の自動二輪車カブ号九〇CCを破壊され、これの当時の時価は七万円である。

五、亡義人の前記本件事故による損害賠償債権八二〇万円は、その死亡により、原告重吉が父として、亡時野が母として法定相続分の割合により二分の一宛相続し、亡時野の本件事故による損害賠償債権五九万五一七二円と右相続による債権四一〇万円合計四六九万五一七二円は、その死亡により、原告重吉が夫として三分の一、その余の原告らが子として一五分の二宛いずれも法定相続分の割合に応じて相続した。したがって原告重吉の相続した債権額は五六六万五〇五七円、その余の原告らの相続した債権額は六二万六〇二三円宛ということになる。

六、原告重吉は本件事故により妻と子を同時に喪い、その精神的苦痛を慰藉するには二〇〇万円、その余の原告らは本件事故により母を喪い、その精神的苦痛を慰藉するには一〇〇万円宛をもって相当とする。

七、以上の次第で原告重吉の被告に対して請求しうべき金額は結局七六六万五〇五七円、その余の原告らのそれは一六二万六〇二三円宛ということになるが、原告重吉は右のうち未払残額六六六万五〇五七円中の一五〇万円、その余の原告らは右のうち未払残額一四二万六〇二三円宛中の三〇万円宛とこれらに対する本件事故の翌日たる昭和四〇年一一月一八日以降各完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう被告に対して求めるものである。

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、原告ら主張の相続関係の事実を認めた。

原告訴訟代理人は、立証として、甲第一ないし第七号証を提出し、証人前田辰男、小原稔の各証言を援用し、被告訴訟代理人は甲第六、七号証の成立は知らないが、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

原告ら主張の請求原因事実中、その主張の相続関係の事実は当事者間に争がなく、その余の事実については、弁論の全趣旨により、被告の明らかに争わないところである。

被告訴訟代理人は、本件第一回口頭弁論期日に出頭しなかったが、その陳述したと看做すべき答弁書によれば、被告と連絡をとることができないことを理由に請求原因事実について認否ができない旨記載してあり、その後第三回口頭弁論期日において、原告らの損害額の立証として提出された甲第六、七号証の成立は知らない旨答え、そして第五回口頭弁論期日においては、原告ら主張の相続関係の事実を認めたのみで、その際もその余の請求原因事実についての認否をあえてしようとしなかったばかりか、爾後の口頭弁論期日には被告本人はもちろん被告訴訟代理人も出頭しないまま推移した。かかる経緯に徴すれば、たとえ前記のように甲第六、七号証についてその成立を知らない旨答弁していても弁論の全趣旨から請求原因事実の前記部分を明らかに争わないとするのが相当である。

右各事実によれば、原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 裾分一立)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例